大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和38年(ラ)72号 決定 1963年11月19日

抗告人 本間茂(仮名)

主文

本件申立中移送申立に関する部分を却下し、その余を棄却する。

理由

抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

よつて判断するに、家事審判規則一二九条によると本件家事調停事件は事件の相手方である抗告人の住所地浦和家庭裁判所の管轄に属するので、原審裁判所に申立てられた本件調停事件は同規則四条一項本文により原則として右管轄裁判所に移送すべきであるが、原審は同条ただし書に則り、本件においては、さきに原審に係属した同一当事者間の昭和三七年(家イ)第七六号夫婦和合調停事件と密接な関連があるので特に必要であると認めてこれを原審裁判所において処理することと決したものであることは記録に徴し明らかである。しかるに抗告人は本件を浦和家庭裁判所に移送するよう申立てたが、原審裁判所に容れられなかつたことを理由として「抗告人のなした本件移送の申立は正当である」旨の裁判を求めるというのであるが、法規上さような抗告の申立を認める趣旨の規定はないから、右は不適法として却下すべきである。(なお参考までに付言するに本件調停申立人が申立当時宮城県白石市内に住んでいたが抗告人の不出頭のため事件の解決が長びき漫然徒食することもできないので東京都内親せき筋の者の経営する会社の仕事の手伝いに行くようになつたのは昭和三八年八月以降のことであることは記録に徴しこれをうかがうことができる。)

また記録によれば抗告人は原審判記載のとおり数次にわたり調停期日に出頭するよう呼出をうけながら、その都度書面をもつて移送の上申をすることに終始し、一度も出頭しなかつたことが認められ、右上申書その他一件記録によると抗告人の言い分は、(イ)裁判所に出頭のために勤務先会社を休むと日給を得られないばかりでなく、(ロ)出勤の常でない者は解雇の対象になることが考えられる、(ハ)一回位なら出頭してもよいが、どうせ本件調停は一回では決まらないと考えられるから出頭しない、というのであるが、(イ)の点は仮にそのようなことがあつてもやむをえないことであり、(ロ)の点はみだりに休暇をとる場合とは趣を異にし、抗告人の身分上重大な事件である離婚事件について裁判所の呼出に応ずるために休んだことが解雇の理由とされるものとはとうてい考えられないし、(ハ)の点は抗告人が頭からそのようにきめてかかること自体根拠のないことで、もとよりいずれも不出頭を正当ならしめるものではない。

それゆえ抗告人に対し、右不出頭につき過料金三、〇〇〇円に処した原審判は相当であり、抗告人主張のような違法はないから本件抗告中この点に関する不服申立部分は理由がないのでこれを棄却すべきである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 飯沢源助 裁判官 野村喜芳)

別紙

抗告の理由

一、抗告人は埼玉県蕨市塚越大荒田○○○番地五に住居を有するものであるから右調停事件の裁判管轄は浦和家庭裁判所である。

二、申立人本間啓子は右調停申立書の住所として宮城県白石市越河五賀字宮下○○番地山本方を表示したが真正なる住所は東京都練馬区貫井町○○○○番地の二の○○荘であつて、その勤務先は東京都練馬区貫井町○○○○番地の○○金属株式会社である。

三、仍つて抗告人は右調停事件を浦和家庭裁判所に移送されたき旨の申立を為し調停期日に出頭しなかつた。

四、ところが、仙台家庭裁判所大河原支部は、その調停事件の移送を為さずして、申立人の住所竝申立理由を一方的に凡て真実の如く断定しその審判の理由中には「本件当事者間の当裁判所昭和三七年(家イ)第七六号家庭和合調停事件において当時調停委員会は当裁判所技官をして相手方の病状を診察せしめる等の手段をつくした結果、申立人が相手方の許に復帰することとなり調停申立を取下げた事情があるし、その結果相手方が申立人方に復帰したところ玄関から入れられなかつたことを理由として本件申立に及んだという申立書の記載等から見て云々」とあるが右昭和三八年(家イ)第二〇号事件の発端は抗告人に在るのではなく申立人本間啓子が抗告人方に復帰したがその衣類を所持して自ら抗告人方を去つたことにあつて、審判の理由とする右申立書記載は全く虚構の事項である。

五、斯くの如く浦和家庭裁判所に移送されるならば当事者双方の利便であるにも拘らず申立人本間啓子はその調停期日には東京から浦和市を通過して仙台家庭裁判所大河原支部に出頭し調停を撃属させていることは抗告人に対するいやがらせのためと考えるほかは解しようがない。

六、審判の裁判所は前記各事項を無視し、申立人の郷里の裁判所において抗告人に対し無言の威圧を加えてその申立のとおり抗告人に押しつけようとしているのにそれを申立人の一方的申立のみを取入れて相手方の申入れには耳を藉さず前記の如き審判を為したのは不当である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例